1型糖尿病において、低血糖(hypoglycemia)は日常的に注意が必要な重要な合併症です。特にインスリン療法を受けている人にとっては、命に関わるリスクにもなるため、症状の把握と対処法の理解が不可欠です。


◆ 低血糖とは?

■ 定義

血糖値が 70 mg/dL未満の状態を「低血糖」と定義します。
特に 54 mg/dL未満になると「臨床的に重要な低血糖(Level 2)」とされ、注意が必要です。


◆ 低血糖の原因(1型糖尿病の場合)

原因説明
インスリンの過剰投与カーボカウントミス、補正インスリンの打ちすぎなど
食事量の不足炭水化物の摂取が少なかった場合
食事の遅れ/抜き注射後に食事を摂らなかった場合
運動有酸素運動により血糖が消費される
アルコール肝臓の糖放出が抑制されるため、遅延型低血糖を起こすことも
発熱・胃腸炎食事が摂れない、インスリン感受性の変化

◆ 低血糖の症状

低血糖の症状は「交感神経刺激症状」と「中枢神経症状(脳症状)」に分けられます。

① 自律神経症状(軽度~中等度)

警告症状として現れることが多く、早期対処のサインです。

  • 冷や汗、手の震え

  • 動悸、頻脈

  • 強い空腹感

  • 不安、イライラ

  • 顔面蒼白

  • 口のしびれ

② 中枢神経症状(重度)

脳がブドウ糖不足に陥るため、重篤になると危険です。

  • ぼんやりする、集中できない

  • ろれつが回らない、混乱

  • ふらつき、歩行困難

  • けいれん

  • 意識消失、昏睡(重症低血糖)


◆ 低血糖の分類(ADAによるレベル分類)

レベル血糖値症状・対応
Level 1<70 mg/dL軽度低血糖。早期対応で回復可能
Level 2<54 mg/dL臨床的に重要な低血糖。即時の糖補給が必要
Level 3血糖値不問意識消失・けいれんなど、他者の介助が必要な重症

◆ 低血糖の対処法

■ ルール:15gの糖質を15分で

  1. すぐに糖質15gを摂取

    • ブドウ糖タブレット(3~4個)

    • 砂糖入りジュース(150~200ml)

    • 飴や角砂糖(3個程度)

  2. 15分後に再測定

    • 血糖値が上がっていなければ再度糖質を摂る

  3. その後の食事で持続的な糖を補給

■ 重症時の対応

  • 意識がない場合 → 経口摂取は絶対にNG

  • 家族や周囲がグルカゴン注射を使用(事前に処方・トレーニングが必要)

  • 緊急の場合は119番通報


◆ 低血糖の注意点

注意点内容
無自覚低血糖頻繁な低血糖により症状に気づかなくなる。特に高齢者や長期糖尿病の方に多い。CGMによる管理が有効。
夜間低血糖睡眠中に気づかず重症化することがある。翌朝の頭痛や倦怠感がヒントになる。
アルコール摂取後肝臓の糖新生が抑えられるため、数時間後に遅れて低血糖を起こす可能性がある。

◆ 低血糖を予防するには?

  • カーボカウントの精度を高める

  • 運動前後のインスリン量を調整

  • SMBGまたはCGMで血糖を頻繁に確認

  • 夜間の低血糖リスクが高い場合はCGMのアラート活用

  • インスリンポンプ(特に自動停止機能付き)を検討


◆ まとめ

項目内容
定義血糖70mg/dL未満。54mg/dL未満で重症リスク
症状冷や汗、震え、動悸、意識混濁など
対処法糖質15gの摂取+15分後の再評価
重症化防止CGMの活用、インスリン調整、低血糖の自己管理教育