2021年に発刊される「標準的医療説明」ですが、慶応大学の田中正巳先生の御計らいで執筆する機会を得ました。普段の説明している内容なのですが教科書にしてよいのかどうか悩ましいところです。以下に当院での説明について少しずつ小出しにしてご紹介いたします。

(1)現在の病態について

良好な血糖コントロールを達成するための主な目的は3大合併症の発症、進展の予防です。合併症には糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害があります。日本においては、網膜症は中途失明原因の第2位、腎症は透析原因の第1位です。また糖尿病神経障害などが原因で足病変が重症化し、下肢切断に至るケースが年間1万人以上に上ることが知られています。合併症の発症、進行を予防するために、一般的にHbA1c7%未満を目標として治療を行います。近年、低血糖と不整脈による突然死、認知症との関連が報告されており、特に高齢者では低血糖を起こさせない治療が必須であると考えられています。すなわち良好な血糖コントロールとは単にHbA1cが低いだけではなく、高血糖も低血糖もないコントロール、良好で良質なコントロールと言えます。
 低血糖の原因薬剤は半数以上がインスリンです。低血糖はインスリンの過剰投与によって生じます。何故、過剰投与をするのか?それは血糖自己測定では簡単には血糖変動を把握できないため自分でインスリン注射の単位数を調整することが難しいからです。したがって医師主導のインスリン治療すなわち、血糖測定の結果に基づき「食前5単位、食前の血糖値が250mg/dl以上なら+1単位」というように医師の指示通りに注射を行っていました。入院食のように食事療法を順守していれば問題はありませんが、鍋など糖質を含まない食事、焼き肉など血糖上昇が緩やかになる食事、アルコールが含まれる時など、医師の指示通り注射をすると低血糖が生じる場合があるのです。カーボカウント(糖質量に合わせてインスリン単位を調整する方法)を習得すれば低血糖発症の確率は減りますが簡単には習得できません。そこで登場したのがFGMやCGMです。FGMを使用すれば血糖の変動を把握することができるため低血糖の前に気づき、対処することができます。食事と血糖変動の関係が把握できるため自分でインスリンの単位数を調整できるようになります。FGMやCGMの登場によりインスリン治療は”医師主導”から”患者主導”へと転換したのです。これからはあなた自身がインスリンの単位数を決めていきます。我々医療者は単位数を指示するのではなく、単位数の決め方を習得してもらうために様々なアドバイスを行います。